りつ缶

のんべんだらり

出世花

p. 79-80

出世魚か、面白いことを言う」
(中略)
「正縁は魚ではない、さしずめ『出世花』と言うところかな」
 正念の言葉に、お縁はどう応じていいかわからず、戸惑うばかりだ。そんなお縁に正念は慈愛の眼差しを向けて、こう言葉を継いだ。
「仏教で言うところの『出世』とは、世を捨てて仏道に入ることだ。正縁は名を変えるたびに御仏の御心に近付いていく。まことに見事な『出世花』だ」
 お縁は、ふいに洩れそうになった嗚咽を、両の掌で覆った。


出世花 (祥伝社文庫)

出世花 (祥伝社文庫)