彼女は河野画伯と女の子たちが消えた雑踏を、喘ぎながら見つめていた。頬に血の気はなかったけれども、もう暴れることはなかった。「ゆっくりです、ゆっくり」と私が言うと、彼女は私の胸に頬をつけて、しばらく動きを止めていた。呼吸が落ち着いてきてからも、彼女は目を開けなかった。「きっと信じてもらえません」と呟いた。
「信じますよ」
私は静かに言った。「信じます」
「とても不思議なことなんですよ」
「私も不思議な目に遭いました。だから信じます」
- 作者: 森見登美彦
- 出版社/メーカー: 集英社
- 発売日: 2009/07/03
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- 購入: 31人 クリック: 1,000回
- この商品を含むブログ (203件) を見る
202p