りつ缶

のんべんだらり

宵山迷宮

 彼女は河野画伯と女の子たちが消えた雑踏を、喘ぎながら見つめていた。頬に血の気はなかったけれども、もう暴れることはなかった。「ゆっくりです、ゆっくり」と私が言うと、彼女は私の胸に頬をつけて、しばらく動きを止めていた。呼吸が落ち着いてきてからも、彼女は目を開けなかった。「きっと信じてもらえません」と呟いた。
「信じますよ」
 私は静かに言った。「信じます」
「とても不思議なことなんですよ」
「私も不思議な目に遭いました。だから信じます」


宵山万華鏡

宵山万華鏡


202p